地形図の読図の基本ーフィールドで生き残るための地図と距離の目安

不意のピンチでは、とっさの判断が正しいかどうかが、運命を左右します。危機を予測したシミュレーションも大事ですが、裸一貫のフィールドでは頭の中にある目安が不可欠です。

ネットで調べる時間はそこにはありません。

「エネミー・ライン」という映画を見たことがあるでしょうか。ボスニアに不時着した米海軍兵が、セルビア人勢力に追われながら、一人で山野を逃げまくる映画です。所持品は、地図、コンパス、無線機。巧みに地図を読み、司令部と位置情報をやり取りします(途中から偵察衛星を使っちゃいますが・・)。

この映画で印象に残るのは、現在地や所要時間を瞬時に出すシーンです(少なくとも私の場合は^^;)。これは、距離と所要時間の目安が頭の中にないとできません。

日本には内紛こそはありませんが、災害や登山で直面するフィールドシーンでは、同じような距離勘がすごく大事なのです。そこで、今回は地形図を使うときに、役に立ちそうな距離に関する目安をまとめてみました。

「1km、4cm」

もちろん、1/25,000地形図上で4cmは距離1kmのことです。このような簡単なことこそ、すぐ出るようにしておきたいです。

もう1つ当たり前だけど、とても重要なこと

地図上で計った距離というのは、水平面上での値です。例えば、以下のような斜度30度の山道では、実際に歩く距離(斜距離)は600mですが、地図上の距離は520mです。
distance_on_map

「1時間、4km」

平地で1時間に歩く距離の目安です。人間の歩行速度は、時速3〜6kmですので、4kmだと少しゆっくりですが、ある程度まとまった距離では、均して時速4km程度と考えるのが妥当です。

「1時間、300m」

山地で人が1時間で歩いて登る高低差の目安です。下山の場合は、半分の「30分、300m」になります。ただし、登山に慣れているか、いないかで、かなり個人差があるので、自分の目安を知っておきましょう。

山地では1時間に進める距離は斜度で異なる

山地の所要時間を予測する場合、水平距離がどのくらいあるかは、あまり関係ありません。距離ではなく、高低差が目安になります。つまり、山地では1時間に登れる高低差は一定なので、下の図のように斜度で進める水平距離は異なります。

斜度が30°もあると、山道を1時間かけて登っても、地形図上では520mしか進めないのです。

distance_and_angle

「タテ 9.3km」

1/25,000地形図のタテ幅は約9.3kmです。1枚の地形図は、経度差 7分 30秒(ヨコ幅)、緯度差 5分(タテ幅)ごとに区画されています。

タテ幅は全国でほぼ同じですが、南北の経線(子午線)どうしは、北にゆくほど間が狭くなるので、ヨコ幅は、那覇で約12.5km、東京で約11.3km、稚内で約9.8kmと北ほど小さくなります。ちなみに、1枚の地形図でも上辺の方が下辺より短くなっています(紙の地形図は台形なのです!)。

「1秒、30m、25m」

日本における緯度差、経度差が1秒(″)の距離の目安です。緯度1″が約30m、経度1″が約25mに相当します。

1分(′)の場合はこれを60倍すればよいので、「1分、1.8km、1.5km」と覚えても大丈夫です。

なお、経線どうしの間隔は北ほど狭くなるので、日本国内で経度差1″は、22〜27m程度と南北で異なります。東京付近で約25mになるので、この値を目安にしました。

この目安からは、位置を特定するのに必要な緯度経度のケタ数もわかります。メートルオーダーの精度には、緯度経度のは、少なくとも小数点以下2ケタまで必要になることがわかります。

秒の数値が小数点以下1ケタまで表示するGPSは、4m程度の分解能であることがわかります。

「10度、10cm、1.76cm」

地図上で10度(°)の角度を引くときの目安です。下図のような関係です。
angle_10

本来、タンジェント(tan)と角度は比例関係ではないので、他の角度を単純に比例倍して求めることはできませんが、10°以下ならだいだい比例関係なので概ね使えます。例えば、この目安を使えば、「5度、10cm、0.88」ですが、正確には「5度、10cm、0.87」です。この程度の誤差であれば、とりあえずなら問題ありません。

これなら電卓も早見表もなしで、大雑把に磁北線がかけます。

映画のようなことは、まずありえませんが、いきなりサバイバルを強要された時に、必要になるのは自分の判断能力です。街中に住んでいると距離勘が鈍ってしまうので、是非紹介した目安を一つでも覚えていただければ幸いです。

「エネミー・ライン」で提督を演じた名優ジーン・ハックマンは、映画「ポセイドン・アドベンチャー」で主演をつとめています。転覆した豪華客船のなかで、みんなが救助を待とうとするところで、一人だけ異を唱える牧師を演じています。やがて船内には、海水が浸入し、牧師に従い自力で脱出しようとした人たちが、ピンチをしのぐことができます(最後は、ハッピーエンドではありませんが・・)。サバイバルでは、自分が下した判断を強く信じる意志も必要なのかもしれません。

参考文献
(財)日本地図センター:四訂版 地形図の手引き、平成15年4月.
(この書籍なくして地形図は語れません!)